桜麗華ーおうれいかー 天界に伝わる華 短編小説

桜麗華―おうれいかー

―天界に伝わる伝説の華― 作:P.N.青空柚樹

俺は清鈴陸(せいりんむ)この国では、最下層、農民の家に生まれた嫡男で、上には姉下には妹がいる。俺は普段川渡しの船頭として収入源を確保している。正直、農家の多いこの辺では、野菜などの採れたて販売などでは到底収入が確保できない。みな同じようなものを作るからだ。だから、俺は川渡しの船頭をしている。親父が農作物を作っているという安心感からも仕事ができうる要因かもしれない。それから、忘れて困るのが、うちの姉と妹だ。姉は来月の半ば、妹は来月後半~再来月の頭で2人とも結婚することが決まった
。姉の旦那が、農業を継ぐらしい。俺はいつも通り船頭をしたまま収入を稼ぐ。で、大方皆納得して、了承を得た。妹も嫁ぐのでなく婿取りだという。理由を聞くと、俺が心配だからだという。俺は心配されなくても大丈夫だといったのだが、心配だと聞かず、残ると言い出したまま意思を変えなかった。こういうところは親父似で頑固なんだよなとあらためて思う。俺は船頭仲間にこの話をした。すると1人がこう言った。
 「こりゃ、めでてーな。兄ちゃんだし弟なんだから、祝いに花でも送ったらどうだ。そうさな、幸福を呼び寄せる《幸福の華》天界の入り口あたりに咲いている、桜のような香りのする、桜麗華なんかはどうだろうね。いいんじゃないか?」といった。そうだよな。花くらい送っても罰は当たらんか。と思った俺は、早速次の休みに行くことにした。天界の入り口は奏宝山(そうほうざん)という山の中腹にあるという。標高9998mという高い山の中腹にある天界の入り口を探して、歩き続け、ようやく見つけられたと思いそこらへんで桜麗華を探していると、『おい』と声をかけられた。振り向くと、オオカミの耳をはやした人間が立っていた。俺は驚いて気を失ってしまった。気が付くと、俺は雲の上にいた。正確に言うと、雲の上を馬みたいなのに乗って飛んでいる。後ろにはオオカミ人間。はっきり言って先程の10数倍怖い。そんな中、馬らしきその動物はスイーっと進んでいき、やがて城らしき建物に到着した。
『耀咲玲(ようしょうれい)様、珀瀏満(はくりゃんま)様、烙竛燐(らくれいりん)様ただいま帰りました。侵入しようとしていた者を捕らえましたので、お連れしました。』
『ご苦労であった。もう下がってよいぞ』
『は。かしこまりました。失礼致します。』
 『で?お前は何故天界の入り口におったのだ?理由次第では返すわけにもいかなくなるぞ?』
 「姉と妹が来月結婚するのです。祝いに、幸福の華―桜麗華―を摘んでプレゼントしようと思いまして、申し訳ございません。」俺は深々と頭を下げた。すると、どこからか女の子の声が聞こえてきた。
 『お母様。その辺で許してやってくださいな。この方のお姉さま妹様の結婚は本当ですわ。桜麗華はこの時期まだ咲きませんが、もうしばらく致しますと、きれいに満開になります。来月には間に合うと存じます。ですから、しばらくはこちらにいらしてください。』
俺はその言葉を聞いて、わかりました。っと了承した。その夜、夕飯を終えた俺が客室に向かっていると、不意に声をかけられた。
 『やあ。僕は珀瀏満…りゃんまでいいよ。今日、咲玲がかばったという男性はどんな人かと思ったら、優しそうな好青年じゃないか
。これなら、お父さんも反対しないよ…ね、咲玲。』
 『お父様ったら意地の悪い。お母様より意地悪ですわ。あ、鈴陸様。これ、お着替えですの。良ければお使いになって。あと、お風呂場は、客間から左に出て突き当り右ですわ
。ゆっくりしてらしてね。』俺はありがとうと礼を言うと、お風呂場に向かった。着替えを済まして出てくると、廊下で女の人と会った
。それは、先程怒っていた女の人だった。
 『あら、先程はごめんなさいね。私は烙竛燐…れいりんでいいわ。あなたよく見ると男前ね。咲玲が惚れるのも無理ないわ。あなたのところにお嫁に行かせるわね(オホホ)』と笑いながら、竛燐は去っていった。俺は「?
」と思いながらも、先程のお嫁に行かせるの言葉が頭から離れなくなっていた。
 数日後、咲玲の言った通り、きれいに満開になった桜麗華をもって、地上へ降りた。結婚式…翌日に姉の式が決まっていた日取りのその前日だった。遅くなってごめんと謝ると姉も妹も「お帰り」と笑顔で迎えてくれた。姉におめでとうと桜麗華を手渡すとありがとう幸せになるわねと返事が返ってきた。俺は摘んできてよかったと心から思った。翌々日の妹の式でも手渡すと嬉しそうに微笑んで幸せになるねと言った。2人の式を見ていると
、この間のオオカミ人間が後ろに立っていた
。俺はびっくりして仰け反るとオオカミ人間は『咲玲様をお送りしたにすぎん。そんなに驚かなくても大丈夫だ。とって食いはしない
。』ととって食いはしないって冗談に聞こえないんだけど…。と思いながらも、ゆっくり言葉を反芻してみた。俺は?と思い「てことは咲玲きているのか?」と聞いた。するとオオカミ人間は『居るのかも何も、お前の横にいるではないか先程から。』と言った。するとさっきまで何も言ってなかった咲玲が『しゃべらないで下さいとお願いしたのに皇牙ってば喋ってしまうんですもの。』ここで俺はやっとオオカミ人間の名前を知った。「お前皇牙(おうが)っていうんだな。」と言った。そうすると皇牙は『そうかお前さんには自己紹介していなかったな。』とうんうんと頷いていた。いや、そうじゃなくてね…と思ったが、奏も言えず、まぁいいかと思った。そして俺は1番聞きたかったことを咲玲に問うた。
 「どうしてこっちに降りてきたんだ?咲玲はこっちに用でもあったのか?」咲玲はオレの言葉に首をフルフルと横に振りこう答えた

 『私はお母様とお父様が良いって言ってたから、こちらに鈴陸のところにお嫁に来たのこれからはこちらで暮らすわ。』そう言って咲玲は皆さま(姉と妹と母と親父)に挨拶すると言って走っていった。俺は、本当に嫁に来たことに驚いて皇牙に「本当か」と問うた。うむうむと頷いている皇牙に本当なんだと思うしかなかった。
 それから数日して、俺は本当に咲玲と結婚した。結婚式は決して華やかなものではなかったが、咲玲はそれでも嬉しい嬉しいとくるくる回って喜んでいた。俺と咲玲は結婚式のあと、実家から離れ2人で暮らし始めた。咲玲は家事全般が得意らしく料理も毎日作ってくれた。口だけでなく、本当に何でもできる子で、料理だけでなく洗濯掃除、収納技術もすごかった。また裁縫で、洋服を作ってくれた。俺は咲玲の至れり尽くせりの対応に、心配になった。「咲玲、不満はないのか」俺はある日そう咲玲に問うた。咲玲は「不満などありませんわ。毎日が楽しいです。あなたと家族になれてよかった」と言った。俺は嬉しくて咲玲を抱きしめた。その夜、俺たちは二人で眠った。
 それから約2年。俺たち2人の間には双子の男の子が誕生した。名前は「咲夜(さくや
)」と「陸海(むつみ)」2人の名をとって咲玲がつけた。咲夜は咲玲に似ていて可愛らしくて大人しい。だが、陸海のほうは俺に似ているのか何をするにも豪快ここに極まれりな感じだ。この子たちが成長するとどうなるか見ものだと思いながら、俺は毎日仕事に出かける。この3人を食わせるしかないからな。こうして俺たち4人の生活はスタートした。
 それから約15年の月日が流れた。俺たちの間には咲夜、陸海の他に鈴音(すずね)と玲華(れいか)という女の子の双子もできた
。上の陸海と咲夜は今年17歳になる。鈴音と玲華は10歳になる。4人ともまだまだ可愛い盛りだ。俺は今一層仕事を頑張っている
。だから、みんなも協力してくれている。優しいんだ。小さいころ豪快だった陸海は今、しっかり者の兄貴肌。日曜大工を勝手でくれるようになった。咲夜は優秀で可愛いのは変わらず、今も俺と風呂に入ってくれる優しさを持っている。料理をよくしてくれるんだ。そして、鈴音たちは今、勉強に集中気味で他は無理だそうだ。だが、玲華は学校の作文で俺と結婚するって書いたらしい。可愛いよな~。これが数年後どうなるんだかってところだ。ま、それは今のところどうでもいいか。ただね、俺の頑張りに最近咲玲が心配しすぎるんだ。心配してくれるのは嬉しいけれど俺はそんなやわな男じゃない。だから大丈夫だって言ってんだけどなぁ。いまいちわかってくれないのよ。それが今の俺の悩みだ。だが悩んでても仕方がない。時が解決してくれるよな。ほら、そんなこんなしてたら帰ってきたよ。
 「「ただいま。」」「お帰り。学校はどうだったよ」と俺が返事すると、咲夜が嬉しそうに走ってリビングへ入ってきた。「父さん‼おかえり」と抱きついてきた。「おぉ。元気だな
」俺の返事に「うん。」と頷いてニコニコしている。それに続いて「お帰り。親父」と陸海が入ってきた。俺は、陸海にアルバイトしないかと持ち掛けた。船頭で生計を立てている俺は社長から「良いの居ないか」と言われていた。「紹介してくれたら少し給与上げるから。」と俺はそれを陸海に話した。この国では16歳からアルバイトOKだからだ。陸海は話を聞いて「いいよ」と言った。そして、次の日から俺たちは一緒に仕事をし始めた。社長は約束通り賃金を上げてくれた。
 ある日の夜。咲玲が俺の部屋に入ってきた
。「ちょっといいかな。」「うん」そして一呼吸おいて咲玲が話し始めた。
 「実はね…。また赤ちゃんができちゃったみたい。もう4週間目立って。」「え?えぇぇ‼」俺は驚きと喜びに咲玲を抱え上げた。「おめでとう。咲玲‼俺は凄くついているんだな。ありがとう。咲玲。」と叫んだ。俺の叫び声に陸海、咲夜、鈴音、玲華の4人が起きてきた。「どうしたんだよ、親父。大声出したりして」俺は起こして悪いと謝り。事情を説明した。すると夜中なのだが、みんな喜び、やったーやったーと大騒ぎした。俺たち家族の夜はこうして更けていった。
                END